世界一周恐怖航海記

世界一周恐怖航海記

「恐怖航海記」と言っても、オカルトとかアンダーグラウンドな本ではないです。旅行記であると同時に、著者の人生の回顧録でもある為、文章が詩的であり濃密です。世界の風景と船旅の様子、車谷氏の人生が絶妙にミックスされています。

著者は全然気が進まないのに、奥様に引きずられる形で船に乗り込んでしまったようですが、半生を船上で振り返るという行為は、かなり立派な「一つの旅の形」を提示しているようにも取れます。ドロドロとした著者の内面が多く語られている内容で、その清々しいまでに「人生観丸出し」な様は久しぶりに心洗われる気がしました。

旅行記という観点から見ると、著者は世界一周をしている自分に酔ってる感が全くないので、極めて冷静な旅行日記です。訪れた国の情景についても書かれていますが、むしろ船内で過ごす長い時間における、食事、天気、排便、体調、人間関係の描写が多いので、船旅の実状が伝わってきます。また、ピースボートに興味がある人は、内情が垣間見れて面白いと思います。

車谷氏の、病的なようで全うな人生と船旅を読んでいると、新鮮な気分でもあり、気が休まる思いさえしました。普段の生活が忙しかったり、煮詰まってる人には、良い気分転換になる一冊だと思います。
世界一周旅行に興味を持っている人の副読本としてもお薦めです。